男は尿意を感じて起床する。窓の外は暗い。
少し、手元の明かりを探し、諦めて携帯電話の明かりで手元を照らす。
狭い経路を、注意深く歩く。
この男の性格はものぐさで、土産物を部屋に置きっぱなしにしてしまい、自室に足の踏み場が無いのが悩みだったりする。
トイレに向かう。狭い通路は薄暗い。一人暮らしな男は、住宅事情にもあまり気を払わなかった。
男は、塒(ねぐら)から離れたトイレに入る。
トイレに入ると男は決まって携帯電話を弄る癖がある。興味があるのは、オカルト関係。
ある都市伝説では、トイレに入った人間が消えて、別の場所、別の時間に現れる、という逸話があった、とか。そういう噂。
扉の外に人の気配がする。男は一人暮らし。普段なら泥棒を疑うだろう。
しかし、男はここでニヤリと笑う。
ふと、気になった男は携帯電話のGPSで現在位置を見る。そして確かめると調べものに戻る。
次のサイトは、扉のイラスト。
扉自体がワープホールで、潜った人間が気が付かない内に量子レベルで分解され、出口の扉で再構成されるという空想科学だ。
こういう記事で男は退屈な時間を紛らわす。下らない、と。
もう一度携帯電話のGPSで地図を見る。
次は……、現在位置の表示が先程と違う位置を指している。
思った通りだ、と男はほくそ笑んだ。
トイレから出て開けた空間に入ると、そこにはたくさんの人間。
整列し、眠っているかのように目を閉じて動かない。
男はその人間の列に近づいていく。
彼が、この不思議な科学技術で『旅』をしたのは他でもない。
人間の子供を、あるシングルマザーの家から連れ出して懐柔する為なのだ。
時間は限られている。
この高度な科学技術で『旅』をするには絶対に、時間を守らなくてはならない。
その後は……? その後はアナタ自身が想像で補いたまえ。それがこの旅の終着点だ。
ヒント1: 怖い話。怪しい人物。突然の豹変。でもよく見て? 全ての謎は繋がっている。
ヒント2: 解けないのなら、ああきっとそれは。大きな音によって意識が眩むせいだろう。
ヒント3: 移動するトイレ。該当箇所は限られて、アナタの意識は空の上。
男は別れた妻の子供に会いに飛行機に乗っている。
男は旅客機の座席で目を覚まし、旅客機のトイレで用を足したのだ。
この旅の終着点は自宅。ただ帰るだけだ。