旅行が趣味の彼女は最近、自動運転にハマっている。
一々速度を調整する必要もないので、気楽なものだ。
そして何時しか、彼女は座席に座ったまま眠りに落ちてしまっていた。居眠りである。
数時間後。日が暮れた頃、彼女は何やら鋭い光を浴びて目を覚ました。
彼女はいつの間にか夜になっていた事に気が付きライトを点けると、目の前から車が突っ込んでくるのが見えた。
その直後、彼女は圧死した。即死だった。
突っ込んで来た車は逆走車ではないものの、運転手である男もまた居眠りをしていてブレーキを踏み損ねたようだ。
二人が居眠りから目を覚ましたタイミングは偶然にもほぼ同時。
しかし不幸なことに彼女の座席があった位置は全壊していた。
突っ込んで来た車の運転手の男は重傷を負った。
その後、レコーダー映像による事故検証が行われた。
しかし検証によると、男の車のドライブレコーダーからはデバイス公表の連続録画時間相当の録画映像が得られたが、彼女の車のドライブレコーダーからは事故の衝撃時の映像すら得られなかった。
そして厳正なる証拠検証の結果、過失割合は完全に男の過失となり、後に重症の状態から会話可能にまで回復した男も、自身の過失を全面的に認めている。
また、彼女の使用していた自動運転機能は何の問題もなく、何の問題にもならなかった。
問題:全ての検証結果に何の問題も無かった決定的な理由を答えよ。
真実:自動運転機能及び、二台の車のドライブレコーダーは、事故後も含め一切の如何なる損傷、不具合を認められなかったものとする。
真実:当該事故に関するあらゆる調査は至極客観的に事実を検めるべく行われた。調査結果の客観的正当性、妥当性、誠実性を疑う必要は全くない。
ヒント1: 悲しい事故であった。
しかし、あらゆる証拠は正しく検証された。
そう。それだけのこと。
では、自動運転機能は?
自動運転機能に罪などあるはずも無し。
無論、そのメーカーにも罪は無し。
ヒント2: 二人の当事者と、二台の車。
二台の車のドライブレコーダーは、全く同じような仕様だと考えてよい。
つまりその録画映像の差は、それぞれの車の於かれた状況の差を表している。
ヒント3: そう。彼女の車は動いていなかったのだ。
さらに言えば、エンジンが掛かっていない。または通電すらしていなかった。
では、彼女が使っていた自動運転機能とは何か?
それは自動運転の名が付く『何物でも良い』ということにならないだろうか?
彼女の使っていた『自動運転』はエアコンの自動運転だった。
つまり、彼女は自宅室内の椅子(座席)で居眠りをしていた。